クールな御曹司にさらわれました
父に怒りは覚える。
でも、嫌いにはなれない。人間としてはだいぶハイレベルな駄目男だけれど、父親としては本当に優しい人で、私の心にはどうしてもその部分が思い出として残っている。

だから、死んでいたら、なんて想像はしたくない。いや、恨みはあちこちから買っていそうで、刺されて死んでいるくらいのことはありそうだけれど。

ともかく、なるべく早く見つけたい。そして、羽前二郎氏に謝罪をしてほしい。


次に私には花嫁修業があった。

毎日二十一時から始まる日本人妻レッスンは、ありていに言って成功しているとは言い難かった。

自分でも驚いています、ハイ。何をやらせても上手にできない。
私自身、今までの人生をどうにか切り抜けてきたという自負から、最初は『どうにかなるでしょ~』なんて気楽な気持ちで講義を受けていた。

蓋を開けてみたら驚きだ。
華道はセンス皆無で、茶道は茶器は落とすし動作はぎくしゃくだし、まったく手順を覚えられず、落ち着いてできない。
日本舞踊は何度も尊さんにご指導をくらってもまったく形にならず、英語は毎度頬をむんずと引っ張られるのが日課だった。

おかしい。こんなはずじゃなかった。
私って、お金がかかってないと真剣にできないのかしら。
いや、充分お金がかかった事態なんだけど……どうしてよ、どうしてうまくできないのよ。

もしかして、尊さんが怖くて萎縮してるとか?いやいや、できない理由を尊さんのせいにするな。

でもこのままじゃ……。心配で不安で仕方ないのに、夜はよく眠れるしごはんは美味しい。
フィジカルとメンタルの強度!ちったぁ、食欲不振とかなりなさいよ、私!
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