クールな御曹司にさらわれました
「朝から騒がしいじゃないか、真中」

嫌な声。そろりと振り向けば、車田課長がそこにいた。
そんなに騒がしくしたつもりないし、始業前じゃないか~。あー、目ぇつけられてると色々面倒くさいよ~。

「元気が有り余っている真中に仕事だ」

車田課長がばさりと置いたのは分厚い紙の束。

「退職した大島がまとめていたリース先の売り上げ推移と発注数推移のグラフだ」

「はあ」

大島さんって……この前、社内で横領がバレて退職した人だよね。30代後半の男性で、ギャンブルに使っちゃったって……。確か実家のご両親が弁済する形で、示談になったはずの。

「大島のヤツ、記録をつけていたのは五年前までだ。そこから四年間分の記録がない」

「え!?でも、今までの会議ではわからなかったんですか?」

うちは複合機の代理店なわけで、定期的にメーカー側と会議が開かれる。そこでどうして露見しなかったんだろう。

「理由をつけて後日提出って言い続けてたんだよ。そのままぶっちぎってやめたんだ。向こうの担当者も適当で、言われるまでこっちも気づかなかった」

ちょっと、待って……直属の上司は車田課長なわけだから、それって課長の責任にもなるんじゃないの?っていうか、課長の責任で済まないんじゃない?

嫌な汗が背筋を伝う。来週の真ん中に親会社であるメーカーとの運営報告会議がある。
こんなことがバレたらどんな騒ぎになるか……。契約取り消しも有り得るのでは……。
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