クールな御曹司にさらわれました
社内にいる営業部の面々が私と尊さんの顔を交互に見ている。
尊さんが超大企業の御曹司であると知らない人も多いだろう。しかし、彼の持つただならぬ雰囲気に小さなオフィス全体が圧倒されていた。

「お邪魔をいたしました。さあ、妙、行こう」

「はい、尊さん」

私は背中に注がれる同僚の視線に耐えながらオフィスを後にした。
廊下に出て、エレベーターに向かいつつ早速抗議する。

「なんですか、アレ」

「俺のような階級の違う人間とタマが友人だと、おまえをいびる上司に教えておいた方がいいと思ってな」

「友人じゃありません」

「生意気なヤツだな。まあ、友人ではないが、方便だ」

ん?つまりは、私を車田課長の嫌がらせから守るためにやってくれたの?それって……そんなこと……。

車田課長の表情まで確認する余裕なかったけれど、確かに、あのこすずるい人のことだ。私が権力のありそうな人と友人だと知れば、我が身可愛さに手出ししてこなくなるかもしれない。

「あの尊さん……」

ありがとう、その言葉を発する前に尊さんの言葉。

「俺のペットをこれ以上振り回してほしくないからな。タマには父親捜しもあるし、まだ覚えてもらうことがたくさんある。残業で時間を取れないでは困る」

はいはい、やっぱり尊さんの都合ね。
少しでも感謝を感じた自分が馬鹿みたいですよ。
でも、尊さんらしくて納得もしている。もう、この人の性格をとやかく言っても始まらないもんね。
私は取り急ぎ制服から着替えるために更衣室に走るのだった。
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