ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」
……車の中で、しばらく沈黙が続いて、
「…さっきは、気をつかわせてしまったな……」
蓮見会長が言う。
「…いいえ、そんなこと…」と、首を振る。
「……もう、10年もたっていたのか…」
口にした、その頬をつと涙がつたって、
「……会長」
声をかけると、
「あ…すまない…」
と、涙を拭った。
両目を人差し指と親指で押さえて、涙をこらえるように顔を上向ける。
「……そんなにも、愛していられたんですね……」
こんなに素敵な人に、そこまで愛されていた奥様のことがなんだか妬けてきてしまう。
「…え…ああ、いつの間にか、そんなに時間が過ぎていたんだなと……」
呟いて、
「……妻を亡くしてから、とにかく会社を大きくしようと仕事に打ち込んできたんで、時間の経過にはあまり気づいてなかった……」
そう続けた。