ダンディ・ダーリン「完璧な紳士に惑い、恋焦がれて」

……車の中で、しばらく沈黙が続いて、

「…さっきは、気をつかわせてしまったな……」

蓮見会長が言う。

「…いいえ、そんなこと…」と、首を振る。

「……もう、10年もたっていたのか…」

口にした、その頬をつと涙がつたって、

「……会長」

声をかけると、

「あ…すまない…」

と、涙を拭った。

両目を人差し指と親指で押さえて、涙をこらえるように顔を上向ける。

「……そんなにも、愛していられたんですね……」

こんなに素敵な人に、そこまで愛されていた奥様のことがなんだか妬けてきてしまう。

「…え…ああ、いつの間にか、そんなに時間が過ぎていたんだなと……」

呟いて、

「……妻を亡くしてから、とにかく会社を大きくしようと仕事に打ち込んできたんで、時間の経過にはあまり気づいてなかった……」

そう続けた。



< 31 / 112 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop