赤に染まる指先
はっと目をやると少しだけ苦しそうに目を細めてる友達が手を振っている。


「おはよう」

「おはよ」


短い挨拶を交わしながらテキストやレジュメを取り出す。


「あんた、大丈夫?」


友達の問いに、なにが、と返す。


「別に」


いつもと変わらない。何もかも、変わらない。


「あんた、本当に死んじゃうよ」


そうかもね、と答えると友達は溜め息を吐いた。


「しっかりしなよ」


別に、私はそれでもいいと思う。


私には息をする理由がないから。


教壇で教授が何か喋ってるけど、内容は頭に入ってこない。

何話してるか分からない、分かる気がしない。

ノート取るにも内容が理解できないんだからもう何もする気にならない。

ぼんやりと頬杖をついて話を聞き流しているうちに授業は終わった。


「ねえ」


テキストやレジュメをかばんにしまっていると声をかけられた。

顔を上げると、私の隣に男の子が立っていた。


「なに」


面倒だと言わなくても伝わるように、冷たい言葉で視線は向けない。


「あんた、何考えてんの」


レジュメを掴んでいた手はぴたりと動きを止めた。


何考えてんの、って。


「…それはこっちのセリフだよ。吉田」


吉田は不機嫌な顔をしたままこっちを見ていた。

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