ifの奇跡
ピンポーン


冬吾との電話を切ってから30分が経った頃、部屋のチャイムがなった。

インターホンのカメラに映る冬吾の姿を確認すると、部屋の鍵を開けた途端に冬吾が慌てて入ってきた。

私の顔を見るなり、ハァーと脱力したと思ったら…次の瞬間には力強い冬吾の腕の中に抱きしめられていた。


「莉子…おかえり。よく頑張ったな。偉かったな…よしよし。」


いつか聞いたことのある同じようなセリフを口にした彼。

だけどあの時とは違って髪をクシャクシャにする事も犬扱いする事もなかった。

ただ…優しい声で私を労わり、優しい手で髪を撫でてくれていた。


「冬吾もありがとう…突然だったのに私の為に急いで来てくれて。他に約束とかあったんじゃないの?」

「莉子は何にも気にしなくていいんだよ。俺が勝手に会いたくて勝手に来たんだから。」

「本当にごめん…。」

「だから気にすんなって…。だけど、今日帰るって決まってたんなら昨日の電話で言ってくれたらよかったのに。急でびっくりしたよ。まぁ莉子が東京に戻って来てくれて嬉しいんだけどね。莉子に会いたくて仕方なかった…」


ズキン…


私が東京に戻って来た事を心から喜んでくれている冬吾の笑顔を見て心が痛んだ。

私の心の中に…ほんの少しだけ芽生え始めたある想いがある事に……

そしてそれを冬吾に相談する事は出来ないと思う気持ちがある事も…。

彼に対する罪悪感のようなものが、胸の中を渦巻いていく。


「う、ん。私も冬吾に会いたかった…」


そう言って腕の中で彼を見上げると、優しいキスが唇に落ちてきた…
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