ifの奇跡
「おぉ、おはよう竹中。今日はどうした?やけに早い出社だな。」


課長が人の良さそうな笑顔を私に向ける。


「課長…お話ししたい事があります。都合のいい時に、少しだけお時間を作っていただけますか?」


私の雰囲気で何かを感じ取ったのか…課長が席を立ち自販機にお金を入れながら私に言った。


「とりあえず、今は時間もあるし誰もいないからお前も話しやすいだろ。でもその前に、座ってあたたかいコーヒーでも飲んで落ち着け。俺が奢ってやるから遠慮すんな。」


そして目の前のテーブルの課長の対角線上、つまり私の正面に湯気の立ち上るコーヒーを置いた。


「ほらっ座んねぇと話もできねぇだろ。」

「…はい。ありがとうございます……。」


言葉はすごくぶっきら棒なのに…すごく温かくて課長の心遣いに胸が詰まる。


「何かあったのか?」

「は、母が………。」


その後の言葉は、涙声で課長もきっと聞き取りにくかったんじゃないかと思う。

だけど、最後まで私の話を聞いてくれた課長は…最後に一言こう言った。


「お前も辛い決断をしたんだな。だけど、お前がお母さんを支える覚悟をしたんなら強くなれよ。会社の事は心配しなくてもいい。お前とはまだ出会って間もないけど可愛い部下には違いないし、竹中がいなくなるのは寂しい事だけど事情も事情だから引き止めるわけにはいかないしな…。あと1ヶ月よろしく頼むな。」

「はい。……こんな形での突然の退職で本当に申し訳ありません。そしてありがとうございました。」


目の前の課長に深々と頭を下げた。

そうしてその日のうちに、課長とともに部長にも話を通し課長に正式な辞表を提出した私は1ヶ月後に母の元に帰ることを決めた。
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