行雲流水 花に嵐
「ふ~、やれやれ。とりあえずは逃げおおせたけど、すぐに動く必要があるわねぇ」

 要蔵の離れで、伏見から帰って来た五人は一息ついていた。

「俺としちゃ、ここで手を引きたいところだがなぁ」

 宗十郎が面倒臭そうに言う。
 太一は要蔵の女房が出してくれた握り飯と味噌汁を平らげた後、宗十郎に引っ付いて眠ってしまった。

「太一は無事に助け出したんだしな」

 本来依頼はここまでだったはずだ。

「けどなぁ、亀松が黙ってるわけねぇだろ」

 要蔵が、ちらりと片桐の傍らを見る。

「まさか旦那が、女郎をかっ攫って来るとはねぇ」

「玉乃ちゃんは女郎じゃないわよ。拐かされただけの町娘」

「……ま、旦那にとっては、そうかもな」

 ふぅ、と紫煙を吐き、要蔵は苦笑いした。

「しっかし亀屋の特別座敷たぁ、大した娘を揃えてるんだねぇ」

 要蔵も宗十郎も、しげしげと玉乃を眺める。
 髷も結わず着物も単のみだが、目を見張るほどの美しさだ。
 まだ幼さは残るが、それがまた妖しい魅力を湛えている。

「玉乃ちゃんは、その中でも一番だもの。そりゃあたしの目も眩むわよ」

 片桐が玉乃の肩を抱き寄せる。
 黙っていれば美男美女なのに、と思いつつ、要蔵は微妙な顔で宗十郎のほうを見た。

「とりあえず、すぐに亀屋を襲うかな。坊がいなくなったとあっちゃ、若当主が危ねぇ」

「奴がいなくても、太一が戻れば家は大丈夫だろうがな」

「まぁ遊郭に入れあげた挙句の殺しってのを伏せれば、何とかなるだろうが」
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