行雲流水 花に嵐
 このような醜聞が上役に漏れれば、微々たるものだが家禄は没収となろう。
 故にそれなりの武家では、当主が無様な死を遂げた場合はその事実を秘匿して病死とし、ほとぼりが冷めてから嫡子に家督を相続させる願いを出すのだ。

「けどこのままじゃ、その女子も危ねぇだろ」

 つい、と煙管を玉乃に向ける。

「女郎の足抜けなんざ、バレた日にゃ簀巻きで川に浮くことになるぜ。びくびく暮らすよりも、元を絶ったほうがいい」

「まぁね。あたしもどうせそのつもりだから、玉乃ちゃんを奪ったんだし」

「じゃあ片桐に頼むぜ」

 宗十郎が言うと、片桐の刀の抉りがいきなり眼前に迫る。
 眉間を突かれる前に、慌てて宗十郎は仰け反った。
 ほとんど無意識の、反射神経のなせる業だ。

「なぁんであたしに任せるわけ? あんたの兄さんでしょうが!」

「知ったことかよ。野郎がどうなろうが家がどうなろうが、俺にゃ関係ねぇ」

「坊に全てがかかってくるのよ。それでもいいわけ?」

 う、と宗十郎が黙る。
 太一はまだ五つ。
 この歳で家督を継ぐのは大変だろう。

「そこは親父殿が何とかするだろ。まだ健在なんだし」

 可哀想だが、武家ではままあることだ。
 それにやはり、宗十郎は上月家に何の思い入れもない。
 無理なら禄を返上して長屋暮らしをすればいいのだ。
 『武家・上月家』は潰れるが、それも致し方なしだろう。

「旦那が上月家に戻るって道も開けますぜ」

 不意に要蔵が口を挟んだ。

「旦那だってれっきとした上月家の人間だ。歳の頃も問題ない。若当主よりも素質があるやもしれねぇよ」

 うげ、と宗十郎の顔が強張る。
 今更あの家に帰るというのか。

「ご免被る。親父殿が頭を下げても断るね」

 ぷいっとそっぽを向く。
 まぁそうだろうね、と要蔵も頷き、煙管を咥えた。

「だとしたら、若当主を救い出すのが一番だ。上月家も安泰、亀松一家を討ち取れば、その女子も安全だ」

「まぁ……そういうことだな」

 ふぅ、と息をつき、宗十郎はすぐ横で眠る太一に目を落とした。
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