行雲流水 花に嵐
「おりゃあ!」

 体型からは、ちょっと想像できない鋭さだ。
 がつ、と攻撃を捌いた箒の柄を、匕首がさらに弾く。

「そんなもんで、いつまでもつかな」

 鶴吉が匕首を振るうたび、箒の柄が削られていく。
 その辺に倒れている男から小太刀や匕首を奪おうにも、拾っている暇がない。

「旦那のその綺麗な顔を、なますにしてやるぜ!」

 ぶん、ぶん、と匕首を突き出しながら、鶴吉が迫る。
 避けられるものは避けていた片桐の背が、どん、と柱にぶち当たった。

「覚悟っ!」

 鶴吉が、一直線に片桐の喉目掛けて匕首を突き出した。
 その瞬間、片桐はすっかり短くなった箒の柄を、下から突き上げた。
 突きのため伸びていた鶴吉の手首に、ささくれ立った竹の柄が突き刺さる。

「……っうっぎゃあぁぁぁ!」

 竹は片桐の容赦ない力のお蔭で、鶴吉の手首を下から貫通して、血濡れの先を目の前に突き出している。
 その手から零れ落ちた匕首を受け止めると、片桐はすぐ前で目を剥く鶴吉の顔面に突き刺した。
 たまたま傍にいた男が、ひっと喉を鳴らして小便を垂れた。

 通常すぐ前にいる敵を倒すのであれば、喉を狙うのではないか。
 なのに片桐は、躊躇いなく鶴吉の顔面に匕首を突き立てた。
 眉間に匕首を生やして倒れた鶴吉を見、亀松はぞっとした。

「ふん、でかい口叩きゃあがって。おねんねしときな」

 吐き捨てた片桐の目が、見世の入り口で棒立ちになっている亀松を捕える。

「……ひっ……」

 一旦びくりと身体を震わせた亀松が、反転して駆け出す。
 片桐が地を蹴った。
 一瞬で、どすどすと見世から逃れようとしていた亀松の背に迫る。

「年貢の納め時だよ、拐かしの松」

 低く言い、片桐は腰の刀に手を添えた。
 足を止めることなく、そのまま抜き放つ。

 しゃっという音と共に、銀色の閃光が走り、ぽん、と亀松の首が鞠のように飛んだ。
 一拍置いて、ぱっと血が飛ぶ。

「玄関で助かったわ」

 ちん、と納刀しながら、片桐が呟く。
 建物内は狭いが、部屋の中や玄関は広い。
 十分刀も使えるのだ。
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