行雲流水 花に嵐
「他の男に抱かれたすぐ後の女を抱く気にはならんなぁ」

 言いつつ杯を干す宗十郎に、おすずは真っ赤になった。

「だ、だってあいつのこと探れって、上月様が言うから……。あたし、嫌々あいつに身体を許したんだよ」

「ほぉ。何かわかったか?」

 裸のままへたり込んで泣き言を言うおすずをそのままに、宗十郎は成果を聞いた。
 酷なようだが、宗十郎にとっては情報のほうが大事だ。

「竹次っていう、亀屋の用心棒だって。親分て人の片腕が、竹次の兄貴分だって言ってた。だから結構親分にも頼りにされてるって。そのうちここら一帯を親分が仕切るから、そうすると自分の身分も上がるって」

「へぇ。そんな大層な奴に好かれたんなら結構なことじゃねぇか」

「ここら一帯を仕切るようになったら、自分も見世を任されるだろうから、そうしたらあたしを女将に据えるって」

「お前にとっても、美味しい話だな」

 どうやらおすずにちょっかいをかけている男は、亀松配下の二人組の一人のようだ。
 『竹』のほうだろう。
 おそらくそいつの兄貴分である亀松の右腕が、亀屋を任されているのだ。

「用心棒ってことぁ、そいつは常に亀屋にいるのかい」

「うん。だからよく、うちにも来るの」

「そいつ、腕は立つのか?」

 これは難しい質問だろう。
 宗十郎のような遣い手であれば、少しの間相手を見ていれば腕のほどがある程度わかるが、おすずのような小娘にはわかるはずもない。
 案の定、おすずは首を傾げた。

「でも用心棒ってぐらいだから、それなりに強いんじゃないかな」

「まぁ……そうかもな」

 さっきもうちょっと注意して見ておけばよかったと思いつつ、宗十郎は杯を置いた。
 おすずが、真っ赤な目で宗十郎を見る。
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