行雲流水 花に嵐
「ありがとうよ、おすず。また何かわかったら教えてくんな」

 刀を掴んで立ち上がる宗十郎に、おすずは泣き出した。
 が、そんなおすずの頭を、宗十郎は優しく撫でる。

「誤解すんなよ。お前が嫌になったんじゃねぇ。ただほれ、ついさっきまで男の相手をしてたのに、お前も辛ぇだろ。無理はさせられねぇよ。一泊分の金は払ってやるから、今日はもう休め」

 宗十郎は懐から小粒銀を取り出すと、おすずの手を取って握らせてやった。

「これは情報料だ。また頼むぜ」

 脱ぎ捨てられた単をかけてやり、部屋を出たところであるじに金を払って店を出る。
 少し考え、宗十郎は色町の南に向かって歩き出した。

 この色町は、南北に走る大通りの両端に大門がある。
 その南門のすぐ傍に、一軒の小洒落た料理屋があった。
 立派な門を潜ると、飛び石を踏んで玄関に辿り着く。

 だが宗十郎は玄関には手をかけず、そのまま右手に折れて建物の横の脇道に入った。
 その先に離れがあり、要蔵の住まいになっているのだ。

「おぅ、どうした旦那」

 離れの奥から出て来た要蔵は、単一枚の寛いだ格好で宗十郎を迎え入れた。
 ここは色町なので、出入りするのは夜のほうが都合がいいのだ。

「やるかい?」

 要蔵が、徳利を振る仕草をする。
 が、宗十郎は首を振った。

「いや、酒は飲んできた。忘れんうちに、仕入れた情報を耳に入れておこうと思ってな」

 そう言って、宗十郎はおすずから仕入れた情報を要蔵に伝えた。
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