行雲流水 花に嵐
 闘争狂で仄かに変態とはいえ、何だかんだと片桐は面倒見がいいのだ。
 こういうところも女子のようである。
 宗十郎は握り飯にかぶりついた。

「で? 結局どうだったんだ?」

 昨日が片桐が竹次と会う三日目だったのだ。

「駄目ね。やっぱりあんな下っ端じゃ、用心深い親玉には会えないわ。でも片腕って奴には会ったわよ」

「亀屋を仕切ってる奴か」

「しかも、場所は亀屋。内部の様子も知れたわよ」

 そう言って、片桐は懐から紙を取り出した。
 見世の内部構造が書かれている。

「この辺りが女郎部屋になってる。見世に入るとね、この部屋にいる女子が見渡せるから、ここで女子を選ぶのね。で、座敷に上がる」

 つつつ、と指を滑らす。

「ここからが曲者でね。廊下や階段がやたら狭いのよ。何かあっても、簡単には逃げられないってわけ」

「刀も抜けねぇな」

 元々部屋の中で立ち合うには刀は不利だが、工夫すれば戦えないことはない。
 だがこの異様な狭さでは、斬り合いはおろか、抜くことも難しいだろう。

「宗ちゃん、刀だけじゃないじゃない」

「お前もな」

 二人とも剣の腕は相当なものだ。
 が、いくら遣い手であっても、刀がなければ何もできないのであれば、それは強いとは言えないのだ。

 刀だって折れることもある。
 折れた瞬間に殺られるようでは意味がない。

 例え無手でも相手を倒す。
 もちろん武器がないのは不利ではあるが。
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