行雲流水 花に嵐
「ま、状況に応じてその辺のものを使うさ」

「抜けないのは相手も同じだしね」

 楽しそうに言いつつ、片桐は握り飯につけてきた漬物を口に放り込んだ。

「あんた、おすずちゃんをちゃんと守ってんの?」

 不意に問われたことに、宗十郎は茶を飲みながら視線を上げた。

「素人娘を使うんだったら、十分注意してやらないと、変にぼろを出して殺されちまうってこともあるよ」

「何だよ。連日相手をしてやってるぜ。あいつがそんなことになる前に、俺のほうが参りそうだ」

「それはご苦労なこったね。でもねぇ、おすずちゃんは一途だからねぇ。あんたに頼まれたこととなれば、それこそ身体張るだろうよ」

 こと、と湯のみを置き、宗十郎は顎を撫でた。
 確かにおすずは、情報を得るために竹次に身体を許したとか言っていた。

 だがそれは、あの店にいる限り、そう気にすることでもない。
 廓ではないので確かに玄人ではないが、あそこで働く以上、そういう接客もある、ということは承知の上のはずだ。

「何も今まで俺だけだったわけでもあるまい」

 呟いた途端、眩暈がした。
 目にも留まらぬ速さで、片桐の中指が宗十郎の眉間を突いたのだ。

「馬鹿っ! 何てこと言うの! それがあんたを一途に想う女子に言うことなの?」

 眉間を押さえて悶絶している宗十郎を叱りつける。

「な、何だよ。おすずだって生娘じゃねぇんだ。そんなこと、割り切ってるだろ」

「生娘じゃなくしたのは、どこの誰よ! あんたってほんと、女心の欠片もわかんないんだから!」

 容赦なく繰り出される蹴りを、宗十郎は身体を捻って避けた。

「相手は物騒なことなんか知らない女子なんだからね! くれぐれも深入りしないよう注意しておきなよ!」

 びし、と宗十郎の鼻先に指を突き付け、片桐は家を出て行った。
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