行雲流水 花に嵐
「おっかねぇなぁ」

 勝次が肩を竦めた。
 そんな話をしながら杯を空けていると、慌てたような足音が階段を上がって来た。

「親分、入りますぜ」

 声がかかり、すらりと障子が開く。
 竹次が勝次にぺこりと頭を下げ、すぐに片桐の前に膝を折った。

「だ、旦那ぁ。すまねぇ、俺だけ遊んでたわけじゃねぇんだよ。ほら、俺みてぇな下っ端が相手する女なんざ、旦那は興味ねぇだろうと」

 目尻を下げて、ぺこぺこと言う。
 竹次はよほど片桐が怖いらしい。

 一度でも片桐にぶちのめされたことのある輩は、その綺麗な姿形からは想像できない力と技に度肝を抜かれ、さらのその独特の妙な雰囲気に、大抵が恐れの対象と見る。
 女言葉の美形剣客というのは、それなりの効果があるものなのだ。

「そんなことないわよぉ。可愛い竹ちゃんを蕩かした女子なんて、興味あるわぁ~」

 竹次の顎を持ち上げて、片桐はぐいっと顔を近付けて言った。

「どんな子よ? あたしにも回しなさい」

「い、いやっ。その、例の牢人のことを聞くために散々責めたんで、その……今はさすがに」

 慌てて竹次が片桐から逃れて、尻で後ずさった。
 その様子を面白そうに見ていた勝次が、おや、という顔になる。

「竹よぉ。殺っちまったのかい?」

 ふ、と紫煙を吐き出しながら言った勝次に、竹次がぶんぶんと首を振った。

「いやいやっ。それは、まぁ大丈夫でさぁ。ただその……あんまりいい顔で泣くもんで、こっちも燃えちまって」

 へへへ、と下卑た笑いを漏らす竹次を、片桐はまじまじと見た。
 手や腕、足などに、くまなく視線を走らせる。
 腕に、若干引っ掻き傷のようなものが認められた。

---着物の中には、もっとあるかもね---

 気になるのは、それがあまり新しい傷ではないことだ。
 もう抵抗する力もなくなっているのかもしれない。

「おめぇは若いからなぁ。欲望のまま扱うと、女子は耐えられんかもしれんぜ。一応向こうの商品なんだから、注意しろよ」

「へい」

 勝次に頭を下げる竹次に、片桐は、ふむ、と心の中で頷いた。
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