行雲流水 花に嵐
「おすずの居場所がわかったか」

 朝になって要蔵の屋敷を訪れた文吉から仔細を聞いた宗十郎は、傍らの刀を掴んだ。

「落ち着けよ、旦那」

 一緒に話を聞いていた要蔵が、慌てたように宗十郎を止める。

「旦那もやっぱり、心配してたんですかい」

 文吉が意外そうに言い、にやにやと見た。

「というより、俺だけ何もしてないのが退屈だったんだ。ま、おすずが帰って来ねぇと弥勒屋にも行きにくいし、一応俺の責任でもあるわけだしな」

「義理だけですかい。冷たいねぇ」

 かつんと煙管を打ち付け、要蔵は文吉に目を戻した。

「で、その仕舞屋には、竹次しかいねぇんだな?」

「おそらく。けどいつもそうとは限らねぇと思いますぜ。竹次はあそこに入り浸ってる風でもねぇ。いねぇときは、別の見張りがいるでしょうし。女は竹次のお気に入りだし、竹次がいるときゃ二人になるでしょうが、そうでないときは何人かでがっちり見張ってるんじゃねぇですかね」

「そうさな。そんなら次、竹次が出向くときに押さえたほうがいいかな」

 顎を撫でながら、要蔵が言う。
 少し考え、宗十郎は口を開いた。

「いや、でもここでおすずを逃がしちまったら、太一の件がまた振り出しだぜ。多分太一は特別座敷とやらにいるんだろう? だったらおすずがそこに放り込まれるまで、様子を見たほうが良くないか?」

 文吉が、驚いた顔を宗十郎に向けた。

「そりゃあ……。でも旦那、いいんですかい?」

「何が」

「おすずさんが、それまで竹次にいいようにされるんですぜ?」

「あいつだって、別に俺だけを相手にしてきたわけじゃねぇぜ。けど、それよりもおすずがそれまで耐えられるか」

 宗十郎にとって、おすずは単なる手駒でしかない。
 若干の情はあるが、若干である。

 れっきとした廓でないとはいえ、色町の女に入れあげるほど無駄なことはない、というのが正直な気持ちだ。
 大体そんな青くもない。
< 62 / 170 >

この作品をシェア

pagetop