行雲流水 花に嵐
「おすずが逃げ出そうとしたりすりゃ、とっとと放り込むかもな」

「けど旦那。それ、悪くしたら殺られますぜ」

 この中では考えが優しい文吉が、心配そうに言う。

「賭けだよなぁ。それに、そこまでして逃げ出そうって気持ちが、あいつにあるかね」

 腕組みして、宗十郎が考える。
 体力的にもそうだし、殺されるかもしれない、と思えば無茶なことはしないような気もする。

「無茶するなって言ったのぁ俺だしなぁ」

 宗十郎がそう言ったのは、探っているのがバレたら困るからなのだが。
 ただ宗十郎だって、全くおすずを心配していないわけではない。
 今無理に逃げ出して殺されてしまったら、あまりに可哀想だ、とも思うのだ。

「旦那。あの娘っ子、相当責められたみたいですけど、旦那のことは吐いてないそうですぜ」

 窺うように言った文吉に、宗十郎が目を向けた。

「旦那のためでやんしょ?」

「そう……かな。でも吐こうと思っても吐けないかも。あいつは俺のこと、何も知らねぇ」

 そう言ったものの、宗十郎は少しおすずを見直した。
 確かにおすずは、宗十郎のことは何も知らない。
 住処も教えていないのだ。

 だが一つ、大きな鍵を握っている。
 宗十郎の苗字だ。

 『上月』と聞けば、亀屋の連中は宗十郎の素性を知ろう。
 何せ、今の大事な金蔓だ。

「……やっぱり、あいつぁ助けてやらにゃ駄目だな」

 とん、と宗十郎が刀で軽く畳を叩くと、文吉は、ほっとした顔になった。
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