行雲流水 花に嵐
「太一は金蔓だからな。それに、俺がおすずを救いに来たと知れば、奴らは俺を探すのにますます躍起になるだろ。おすずが今まで俺のことを言わなかったとしても、おすずが竹次を探ってたのは俺の指示だとわかるだろうし」

「自ら的になるんですかい」

「まどろっこしいのは性に合わん。ぐずぐずしてて、上月の馬鹿当主が動いても困る。親分の話じゃ、仙太郎は相変わらず亀屋に行こうとしてるそうじゃねぇか」

 要蔵も、亀屋を張るだけでなく、上月の屋敷も張っていたらしい。
 素人に下手に動かれると困るからだ。

 そこで、仙太郎の様子も把握した。
 すっかり憔悴しているものの、動けないほどではないらしい。
 亀屋から解き放たれた数日は大人しくしていたが、急にまた亀屋に行こうとしているという。

 おそらく父から宗十郎のことを聞いたのだろう。
 息子が心配なのもあるだろうが、何より宗十郎が手を貸す、ということが気に食わないのだと思う。
 宗十郎などに頼らずとも、己で太一を救い出そうというのだろう。

「金も力もねぇのに、何ができるってんだ」

 自分が亀屋から出るだけで精一杯だったのだ。
 それでも息子を救おうというのが親というものかもしれないが。

「いっそのこと、仙太郎が人質になって、代わりに太一を解き放ってくれたらなぁ」

「そしたら旦那、動かねぇでしょ」

「いや? 金次第で誰だって救うぜ」

「ほんとですかい?」

「ああ。仙太郎のほうが太一より扱いが雑でいいから楽でいい、と思ったんだ」

 鬼だ、と呟く駒吉に軽く笑い、宗十郎は腰の刀に手をかけた。

「てことで、おすずの様子を見てくる」

「へぇ。娘っ子は多分、向こうの路地に面した部屋にいると思いやす」

「手下を殺っちまったら、俺が動いたって竹次に知らせられねぇな。一人は逃がすか。ただおすずの口は封じねぇと」

「え、旦那。娘っ子は用無しですかい」

 駒吉が驚いた顔になる。
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