江戸女と未来からの訪問者
「あれ、もしかして、花子?」

 私に気づくでない。

「あ、やっぱり花子だ。花子ー!」

 私の名前を呼ぶでない。恥ずかしいであろう。

「こんなところで何してるのー?」

 語尾を伸ばすでない。その歳で恥ずかしいと思わんのか。

 そなたこそ、こんなところで何をしておる。

「久しぶりだねー。元気してたー?」

 そなた、白粉を塗りすぎではないか。

「うわっ! お香くさっ! 強烈うううー!」

 そんなに顔をしかめんでよい。鼻を摘ままんでよい。

「花子は相変わらずだね。まだ着物着てるし、番傘も差してるし」

 着物を着て何が悪い。番傘を差して何が悪い。

 そなたも着物を着ればよいではないか。番傘を差せばよいではないか。

「二十年ぶりだっけ?」

 二十二年ぶりじゃ。そなたは記憶力が悪いのう。

「あの頃とあまり変わってないねー」

 それは褒め言葉であるか。

「無視しないでよー」

 うっとうしいだけじゃ。
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