江戸女と未来からの訪問者
「どこに行くのー?」

 コン……おっと、危ういところであった。池田屋に行くのじゃ。

「結婚したの?」

 まだ独身じゃ。

「彼氏はいるの?」

 そなたのせいで、四十年間も彼氏ができないのじゃ。

「いないなら、紹介してあげようかー」

 紹介してくだされ。

「合コンに来る? 年下のイケメンがいっぱい来るよー」

 行きたいに決まっているであろう。

「処女膜はまだあるの?」

 朝から何を言うておる。

「仕事は何をしてるの?」

 日本人形を作っておる。

「何も答えてくれないね。私のことが嫌いなの?」

 嫌いに決まっているであろう。だから黙っておる。

「あの人が私の彼よー。じゃあねー」

 彼氏がおるのに合コンに行っておるのか。

 不潔極まりない汝じゃ。

 まったく汚らわしい。

 それにしても、イケメンじゃ。

 羨ましいではないか。

 おっと、私としたことが。

 イケメンなどという、現代用語を使ってしまったではないか。

 ご先祖様に申し訳が立たぬ。

 この場で切腹すべきか。

 町の民が見ておる。

 今はやめておこう。
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