キミノテノヒラノウエ。
夕方差し入れを持って、薫ちゃんの病室を訪ねると、

ちょうど看護師さん達が3人が

薫ちゃんの横で笑いあっているのが、

開いたドアから見えてしまった。

思わず、後ずさる。

ちょっと胸が苦しい。

薫ちゃんはいつも通りの顔だったけど、看護師さん達は楽しそうだ。


私が、後でもう一度来ようとクルリと後ろを向くと、

松田先生と、野村先生が笑って後ろに立っている。

「てまりちゃん、百面相(ひゃくめんそう)面白い。
遠慮しないで、部屋に入りなよ。恋人でしょ。」と野村先生が笑う。


で、でも…。

「きっと、宮下は我慢して相手をしていると思うよ。
早く助けてあげないと…」

「お前ら、油売ってないで仕事しろよ!」と部屋の中から薫ちゃんの怒った声が聞こえた。


「ね。」と野村先生が私に笑いかける。


「センセーひどーい!せっかくお見舞いに来てるのにい。」

「宮下先生の冷たい言い方がいいんじゃない。
口は悪いけど、ちゃんと、いっつも助けてくれるし。」

「先生、治ったらご飯行きましょうね。」と声が聞こえて来る。


「うるさい、早く仕事に行け!」と薫ちゃんの声。

野村先生が私の手を掴んで、病室に入る。

「はい、君達は帰って帰って。彼女の登場〜。」と私の手をあげる。

看護師さん達は私をジーっと観察して、

「なんだ、お子様じゃない。」

「宮下先生ってロリコン?」とか言いながら私の横を通って、部屋を出て行く。

…確かに。

私は8歳も年下だし、童顔だ…

私が凹んで下を向くと、

「俺はてまりが好きだよ。
てまりがパティシエになるために毎日努力しているのを
俺はずっと見てきた。
見かけよりずっとオトナだって俺は知ってる。」と薫ちゃんははっきり声を出した。

きっと出て行く途中だった看護師さん達にも聞こえたろう。

私はゆっくり顔を上げ、

「薫ちゃんの好きなクリームブリュレ作ってきたの。」と少し微笑むと、

「やった。きっとチビスケがなんか持って来るって思ってた。」

と薫ちゃんは私に大きく笑いかけた。

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