レンタル彼氏–恋策–


 その日のバイトは、今までで一番きつかった。紗希ちゃんや昭に気を遣うし、バイト仲間の同情や好奇の視線が刺さる。

 紗希ちゃんのバイト開始を申し訳なく思っているのか、昭はヒマな時間に何度か呼び止めてきたけど、

「ごめん、まだやること残ってて」

 無理矢理雑用を探し、取り合わなかった。昭が私を気にかけるたび、紗希ちゃんが睨んでくるのが分かるので、それも嫌だった。

 長く続けてきたバイトは好きだけど、今日はさすがに辞めたくなった。


 帰りの電車の中、空いた座席に座りスマホを開くと、1件のメールが来ていた。杏奈(あんな)からだった。

《大学、大丈夫?何かあったらいつでも言ってね。って、私あんまり大学行ってないから頼りないかもしれないけど。
心晴、もうすぐ引っ越すんだって?ビックリしたよ。ひなたと心晴って昔から仲良かったし、心細いよね》

 杏奈のメールを見て、泣きそうになった。人の少ない車両で、肩が震えた。

 杏奈とは軽く雑談するだけの関係だと思ってたのに、ここまで気にかけてくれるなんて……。普通にしてくれる子もいるけど、大学で会う友達は相変わらず皆そっけないし、大勢の人がいるサークル活動に参加しても孤独を感じてしまう。だからよけい、杏奈のメールが心にしみた。

《ありがとう。大丈夫だよ。今日バイトで気分転換してきた(笑)また遊ぼ♪》

 返信し、スマホをカバンにしまう。

 昔、悩んだ時に真っ先に頼る相手は心晴だった。一番の女友達で親友だから。今もそれは変わらない。……そのはずなのに、今、心に浮かぶのは心晴の顔じゃなかった。

「凜翔に会いたい……」

 嫌われているのかもしれなくても、好かれてなくても、いい。それは仕方ない。ただ私が、ワガママに彼と会いたいーー。
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