いつも、雨
廊下に出ると、涙がにじんできた。

ねえやとすれ違ったけれど、涙を隠すように顔を背けて通り抜けた。



自室で着替えると、領子は勉強道具を抱えて、要人の部屋へと向かった。

庭をぐるりと回って、障子越しに声を掛ける。

「領子です。竹原。お勉強に参りました。開けてもよろしいですか?」

いつも通り声をかけると、中から音もせず障子が開いた。

「……どうぞ。」

素早く周囲を見渡し、誰も見ていないことを確認してから……要人は領子の手を引き部屋に引き込み、後ろ手で障子を閉めた。

そして無言で領子を抱きしめた。


いつもならすぐに雪見障子を上げるのに……。

竹原……結納のお話、もう聞いたのかしら。


領子は要人の胸に頬をすりつけた。


……竹原の……香り……。

ずっとこうしていてくれたら……わたくし……何も怖くないのに……。

竹原がそばにいてくれたら、それで、幸せなのに……。



「……キタさんから聞いた。泣いてたって。」

優しい声。

心が震える……。


「やっぱり気づかれちゃったのね。……ねえや……他には何か言ってました?」

「いや。……でも、想像はつくよ。橘さまから、結納の話が出た?」


要人の口から出てきたら、「結納」という言葉がますます重く感じた。


「……橘のおじさまは何も。……でも既にお母さまと日取りをお決めになったみたい。お父さまの四十九日が終わったらすぐに結納なんですって。」

涙がまたこみ上げてきた。


「……。」

要人は何も言わなかった。

ただ、領子を抱く腕に力と熱がさらにこもった。




しばらくして、要人は領子を解き放つ。

雪見障子を上げると、座卓を挟んで領子の対面に座った。

領子もまた、力なく座った。


ノートと参考書を開いて、ペンケースを開ける。

このシャーペンも、消しゴムも、ペンも、定規も、ケースも、下敷きも……身の回りの細々としたモノは、もはやほとんど全てが要人からの「お土産」だ。

領子はあらためて、愛しげにシャーペンを手に取った。


数学の問題に取り組み始めたけれど、頭が回らない。


「……結納って……結婚の約束を正式にするってことよね……。」

数字を眺めながら、そうつぶやいた。
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