いつも、雨
かつて、少年の要人(かなと)に株や、為替を教えたホームレスがいた。

鴨五郎と呼ばれていたホームレスは、いつの間にかひっそりと失踪した。

長らく行方がわからないままだった鴨五郎の訃報を要人にもたらせたのは、やはりホームレスの男だった。



「竹原のぼん、って……あんたか?」

会社の入ったビルのすぐそばのベンチに座っていた男が、低い声でそう尋ねてきた。


「……そうですが。あなたは?」

「社長。関わらないほうがいいですよ。あっち行けや。お前の来るとこちゃうわ。しっしっ。」

まるで野良猫を追い払うように、秘書は乞食に手を払った。


要人は、逆に秘書に対して、手で払う仕草をして見せた。

秘書は、渋々ビルの中へと引っ込んだ。



「部下が大変失礼いたしました。……場所を移しますか?」


かつて、要人を「ぼん」と呼んだのは、鴨五郎だ。

目の前のホームレスは、鴨五郎を知っているに違いない。


「……いや。ここがいい。……見晴らしいいんや、ここ。建物の角度も、ちょうどええ。……狙撃されにくい、ええ場所や。」

低い声は、理知的で、意外と若い。


狙撃という物騒で非現実的な言葉は、冗談ではないらしい。



要人は、言葉を選んで話しかけた。

「先月から、何度かニュースになったり……ならなかったり、相次いでいる発砲事件と……鴨五郎のおっちゃんの失踪は……関連しているのですか?」


ホームレスは、ニヤッと笑った。

「直接やない。でも、無関係でもない。ぼん、やっぱり賢いんやなあ。親父が可愛がるわけや。……なあ、あんた……後生大事に守っててくれてたんやて?貸倉庫。ありがとうな。」


おやじ?

では、このホームレスの扮装をした男は……あの鴨五郎の息子ということか?


「……お元気ですか?ずっとお逢いしたくて……探していたのですが……。」

「いや。俺に敬語使わんでええって。気持ち悪いわ。……親父やったら、とっくに死んでるで。もう2年や。三回忌も済んだわ。」
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