いつも、雨
胸が、つまる。

何度も覚悟してきたとはいえ、やはりもう二度と逢えないと突きつけられると……要人は胸を押さえて少しうつむいた。


「そうでしたか。残念です。……もう一度、お会いしたかったです……。」

「うん、まあ。おおきに。……親父も、逢いたがってたわ。でも、ぼんががんばってるんは知ってたで。陰ながら応援もしてたわ。」


……応援?

何となく思い当たるふしはあったが、確信がないので、要人は黙って聞いていた。



ホームレスは、稲毛と名乗った。

歳は、要人より1つ上……まだ28歳だという。


てゆーか、年上なら敬語でもかまわないだろう。

なんといっても、大恩人の鴨五郎のおっちゃんの息子さんだ。


慇懃無礼にならないように、要人は自然に敬語を駆使した。


「上賀茂のご自宅にうかがおうとしたことがあるんです。なんべんも。」

「あー。うん。そうらしいなあ。親父が言うてたわ。かんにんな。……あの頃は組の中で、揉めてて……下手に関わらへんほうが、ぼんのためやってんわ。」


……組……。


「ご自宅も、貸倉庫も……人相の悪い男たちが交代で見張ってるようでしたね。……じゃあ、稲毛さんは……」


パタパタと、稲毛は手を振った。

「あ。俺らはヤクザちゃうで。ほら、ちょっと前に亡くなった京都の昔っからの任侠の親分さん……井上さんゆーねんけど、あの人、小さい頃は虐められっこやったとかで、小学校の地区委員やった親父が面倒見ててんて。盃は交わしてへんけど、義兄弟みたいなもんらしいわ。」


……ヤクザの組長の兄貴分ってことか?

それは……めんどくさそうだな。
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