いつも、雨
実際の出逢いの糸口は鴨五郎や稲毛だったが……別のルートからも、いずれは佐那子に繋がったのかもしれない。

それだけの深い縁があるのだろう。

要人は、せっかくの赤い糸が切れないように、大切にたぐり寄せ、強いよりを掛けて紡ぐ労を厭わなかった。




用事を済ませた要人が自宅マンションに戻ると、見慣れぬ男の視線を感じた。

興信所でも警察でもヤクザでもない……若いスーツの男。

佐那子の父親の秘書か事務所の職員か?

とりあえず、要人に声をかけるつもりはないらしい。

慌てて姿を消したところを見ると、報告に走ったのだろうか。


……ご苦労さん。

心の中でねぎらって、要人は取り急ぎ必要なものだけを持って、すぐに部屋を出た。


30分後には、業者が荷物を取りに来る。

急遽入手した新たな部屋は、セキュリティを何よりも重視して建てたという郊外の一軒家だ。

運転手の荒井の兄……元組長候補だった男が所有していた空き別荘をもらい受けた。


観光地の大きな寺院の一角によく、こんな別荘を建てられたものだ……。


下見に行った要人は、一目で即決した。

周囲は竹林だが、近くには山も川も岡もある。

佐那子が喜びそうなロケーションだった。





稲毛の家で、佐那子は準備万端、要人を待ち受けていた。

珍しくヘアメイクまでしてもらったらしく、いつもより華やかだ。

動くたびにふんわりと裾が広がる白いワンピースも、白い花の髪飾りも、白いエナメルのパンプスにも、佐那子はご満悦だった。


「原くんが買ってきてくれたの。……結婚式はできないけど……気分だけでも、って。」

佐那子は笑顔でそう言ってから、ふにゃっと泣きそうな顔になった。


「そうか。……気が利くな。……なのに、すまない。私のほうは、間に合わなかったよ。」

要人はそう言って、空の指輪のケースを見せた。


ぷぷっと、佐那子は笑った。


でも、要人はとても笑える気分ではなかった。



長年つきあいのある宝石店に駆け込んだ。

デザインも、石の取り寄せも、要人の希望通りにしてくれる店だ。

店主は気を利かせて、要人の眼鏡にかなうハイクオリティの石を普段からいくつも取り置きしていてくれた。


……ただし、それは……すべて、領子に似合う、領子のための石ばかりだった……。
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