いつも、雨
極上のシャンパーニュで、乾杯。

「酔っちゃったかも。」

くすくすと、笑う佐那子の頬は確かに赤い。

食前酒だけなのに。


つきあい始めてすぐ、佐那子はあまり酒に強くないことがわかった。

だから、飲みに行くよりも、食事したり、お茶したり……これまでは気遣ってきた部分もあった。

でも……。


「……どれだけ酔っても、もうかまわんよ。酔った君を家に帰すのは心配だし、気が引けてたけど、……これからは一緒に俺たちの家に帰るんやから。」


要人がそう言うと、佐那子はうれしそうにぶんぶんと身体を揺らし喜び……多少酔いが回って気持ち悪くなりそうになった。

「うー。。。でも、新婚初夜から酔っ払いとか、嫌ー。」


そう唸っていたが、食後にも酒が残っていたらしい。

ふらふらしてるのを支えて歩くよりは……と、会計を済ませた要人は、佐那子を抱き上げて店を出た。


……お姫さまだっこされてる……。

お店のヒト、見てるのに……。

ドキドキしてきちゃう。


黙ってジタバタしてる佐那子に、要人は目を細めた。


「夜風にあたると、酔いがさめない?」

「……確かに……気持ちいいかも。」

佐那子はそう言って、要人にきゅっとしがみついた。


「車にラムネがあるわ。たぶんかなりマシになるわ。」

「らむね?飲むの?食べるの?」

「食べるほう。手っ取り早くブドウ糖を摂取できるから酔っ払いには即効性があるんやってさ。原くんが、常備してくれてるよ。」

「原くん……すごいねえ。地元でも鼻つまみ者扱いだったのに、みんな、びっくりしてるみたい。ぜーんぶ、要人さんのおかげね。ありがとう。」


佐那子に礼を言われる筋合いではないと思うのだが……。

要人は、多少複雑な気持ちになった。


「いや。むしろ、俺が感謝してるんや。……不思議やな。君に繋がる縁にも、君をとりまく環境にも……俺は感謝しかないわ。……ご両親にも、いつか謝意を伝えられたらと思ってる。……今は……ごめんな。」


佐那子は慌てて、ふるふると首を横に振った。

大きく見開いた黒い瞳が、涙が溢れてきそうなほど濡れていた。




区役所に婚姻届を提出した後、すぐそばの神社に2人でお参りした。

誰もいない、灯りさえついていない境内を、神聖な気持ちで歩いた。


八百万(やおよろず)の神に結婚の報告をして、本殿の前で、間に合わせの指輪を佐那子の指にはめた。



……祝詞(のりと)も、司祭も、参列者もいない、2人だけの結婚式。
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