いつも、雨
「ホテルか旅館に泊まるの?……新婚旅行気分?」

「まさか。旅行は、ちゃんと計画しよう。君の行きたいところに。プリンス・エドワード島でもモンテ・クリスト島でも、どこでもいいよ。」


要人はそう言ってから、佐那子の手をそっと取った。


「……事後承諾になって、すまないね。実は、急きょ、引っ越した。……うちのマンションは既に君の実家に目を付けられているらしくてね。……とても、君を置いて、会社に行ける状況じゃないようだ。」


佐那子の表情が変わった。


「……そう。それで、私、稲毛さんのお宅に連れられたのねえ。……迷惑をかけて、ごめんなさい。」

「迷惑?……いや。この程度のこと。全然。」



くすっと、佐那子が笑った。

ん?……と、要人が促すと、佐那子ははにかんだ。


「恥ずかしいけど……私、浮かれてたみたい。てっきり、留守中にマンションを……ハネムーン仕様にお花で飾り付けてくださってるのかと思ってたわ。」

「……。」


要人は何も言えなかった。


顔をしかめたような、歪めたような曖昧な反応に、佐那子は口を閉ざした。




理由はすぐにわかった。

到着した新居は、いかめしい堅牢な石造りの家だったが、大慌てで花屋を総動員したらしく、赤やピンクのかわいらしい花で飾り立てられてたいた。


佐那子はポカーンとして、それから、涙目で要人を見た。



「……まあ、そういうことだ。」

要人は照れくさそうに、わけのわからないことを言った。


佐那子を少しでも喜ばせたい。

その思いに嘘はない。



「ありがとう。……うれしいわ。うれしくて、幸せで……もう、これ以上、お腹いっぱい。」

佐那子はそう言って要人に抱きついた。



要人は、ぽんぽんと佐那子の背中を軽く叩いてあやして……、おもむろに抱き上げた。





イロイロと規格外ではあったが、2人にとっては生涯忘れ得ぬ幸せな記念日となった。






こうして2人は、幸せに暮らしました。

めでたしめでたし。



……とは、いかなかった……。


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