いつも、雨
領子(えりこ)が訃報を受けたのは、東京に梅雨明けが宣言された日だった。


兄の恭風(やすかぜ)の妻、つまり義理の姉の静子が交通事故で亡くなったらしい。

とっくに夫婦仲は冷め切っていたとはいえ、2人には恭匡(やすまさ)という息子もいる。

幼な子を残して逝った義姉の無念はいかほどだろうか……。



普段感情を見せない領子が涙にくれているのを見て、夫の千歳も珍しく優しい言葉をかけた。

「お義兄さんも、恭匡くんも、さぞかし落胆さられているだろうね。……葬儀のあと、僕らはすぐに失礼するが、君は数日、残ってさしあげるといい。」


しかし、領子には優しさとは伝わらなかった。


……わたくしがいないほうが、気が楽なのね……。




初めから、ボタンを掛け違えたような結婚生活だった。

互いに心を開く会話をすることなく、家同士の約束に従容と結婚した。

格式張った結婚式の後、豪華なホテルで、たぶん初めて2人きりになった。

極度の緊張感で、ろくな言葉も交わさないまま、同衾した。


なおざりな前戯に濡れない領子に、千歳は舌打ちして……初夜の交わりを諦めた。




翌日、新婚旅行に出発した。

不夜城のようなラスベガスで、途方に暮れる領子を置き去りにして、千歳はルーレットに血眼になった。

千歳の昼夜は逆転し、オプションの観光やホテルのアクティビティには領子独りで参加した。

すれ違ったまま日数だけが過ぎていった。


留学経験のある千歳は独りでもそれなりに楽しめた。

しかし、領子は、ただただ孤独だった。



最終夜、酔いに任せて、千歳は領子を組み敷いた。

やはり濡れない領子に、自分への頑なさを感じて、苛立ちをぶつけるように千歳は無理強いした。

領子の膣が傷つき、少なからず出血した。


痛みに戦慄(わなな)く領子と対照的に、千歳は満足そうに独りごちた。

「なんだ。てっきりあの男に仕込まれてると思ってたのに……中古品というわけではなかったのか……。」



……あの男……。

そう……。


竹原とのこと……やはり……ご存じだったの……。
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