いつも、雨
「べっぴんさんの姫さん元気け?」

以来、鴨五郎は要人(かなと)に遭う度に、領子(えりこ)のことを尋ねるようになった。



「ゴールデンウィークになったら来はりますよ。」

「夏休みはこっちで過ごすんちゃいますかね。」

「シルバーウィークにも来られるけど、ご両親もご一緒でしょうね。」



などなど、当たり障りない返事を繰り返したが……虫の居所の悪かったある日、つい苛立ってしまった。


「そんなしょっちゅう聞かれても、わかりませんから!所詮、別世界の姫なんやから!」


……あ……切れてしもた……。

子供のように喚いてしまったばつの悪さで、要人は口の中で小さく

「すみません。」

と謝った。


鴨五郎は目を細めた。

「いや、かまわんけど……ムキになるとこ見たら、あながち姫さんの片想いってわけでもないんやなぁ。」

「はあ!?領子さまはまだ子供ですけど?何ゆーてるんですか?」


……しまった……。

過剰反応してしまってから、要人は自分がムキになっていることに気づいた。


鴨五郎は、ニコニコしていた。


「ぼんかて子供や。わしから見たら。……けど、子供やからゆーて、人格や気持ちを軽んじるのはおかしいやろ?」

「……はあ。」

照れくさい。

でも……。


要人はしばし考えてから、同意した。

「……ほんまや。……確かにおっちゃんは、学校の先生とか、警察とか、ヤクザと違って、俺を子供扱いしてはらへんわ。」


……ろくなオトナと関与してないな……。

二親揃った普通の家庭の子ぉではないと思ってたけど……むしろ、グレてないほうなのか。


鴨五郎は、偏差値の高い有名進学校の制服をお仕着せのように身につけた要人を改めてしげしげと見た。

「ぼん。女の成長は男より早い。子供や子供やゆーても、ぼんがオトナになる頃には、姫さんはもう誰かの女になっててもおかしないで。」


鴨五郎の言いたいことはわかる。

でも……。


要人は、肩をすくめた。

「とっくに誰かの女ですよ。領子さまには、生まれる前から婚約者がいはりますわ。」


すると、鴨五郎は顔をしかめて、唾を吐き捨てた。

「はっ。今時?笑わせよるわ。」

「……だから、別世界の姫なんですよ。」

要人は微笑すら浮かべてそう言った。

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