いつも、雨
鴨五郎は、しばし考えてから、ポツリと言った。

「……世の中、金や。」

世捨て人のホームレスの言葉とは思えなくて、要人は不思議そうに鴨五郎を見た。

「おっちゃんは、そーゆーんが嫌いなんやと思ってた。」

「ああ。そうや。嫌いや。……金は、汚い。物質的に豊かな生活を求めたら逆に心は貧しくなるもんや。」

鴨五郎はそう言って、要人の目をじっと覗き込んだ。

「ぼんは、どうや?金が欲しいか?」

「まあ……欲しくないゆーたら嘘になるけど。」


要人は曖昧にしか答えられなかった。

本心をごまかしたわけではなく、大金を手にしたことも、使ったこともないので、実感がわかない。


鴨五郎は要人の戸惑いの中に小さな苛立ちを見て取った。

この子はいつも、餓えているようだ。

何の目標もないから、自分の能力を持て余しているのだろう。

スポーツとか、芸事とか、何か打ち込むものがあるといいのだが……器用すぎる人間は何でも労せずして成功してしまうものだ。

この子が感情を露わにして見せた数少ない事柄は……あの小さな姫さんのことだけ。

もちろん、それがイコール恋だと思うほど、鴨五郎は頭がお花畑ではない。

だが……

今は形にならなくとも、いずれ恋心となることは想像にたやすい。

何と言っても、あの姫さんは、美人になる。

そして、目の前のこのぼんの、男ぶり。

姫さんのぼんへの想いが、ただの憧れじゃないことは、あの涙で明白だ。


……どっちにしても時間の問題っちゅうわけや。


鴨五郎は、要人をじっと見て、それから息をついた。

「教えたろか。」

突如そう聞かれて、要人もまた鴨五郎の想いを探ろうと、その目を見つめた。

澱んでない、慈愛すら感じる穏やかな瞳。


……俺を騙すつもりはなさそうだ。

けど、何を?

鴨五郎の、正体?

いや……今の会話の流れは……儲け口?


「ヤバい話やったら、遠慮しとくわ。」

すぐに食いつかない要人に、鴨五郎は目を細めた。
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