いつも、雨
もう午後遅いというのに、病院に到着すると、事務長だの院長秘書だのが迎えに出て来た。

要人の指示で領子は終始特別待遇で、検査を受けさせられた。

診察には、要人も同席した。

周産期医療部の部長だという医師は、領子のカルテと、要人の名刺を照らし合わせ、名字の違いを踏まえた上で告げた。

「おめでとうございます、と申し上げてよろしいのですね?まだ、5週目ですので安定期まで予断は許しませんが。」

「5週目……。」

思わず、要人と領子は顔を見合わせた。


医師は壁にかかったカレンダーを見上げた。

「排卵日は約7週間前……ですかね。」


領子もまた、医師の言葉に、カレンダーを咄嗟に見上げた。

そして、要人は……口元が笑ってしまうのを咄嗟に隠した。



……俺の子だ。

絶対そうだ。

間違いない。

……たとえ、同じ日に旦那にヤラレてらしたとしても……俺のほうが強いに決まっている。

負けるわけがない。

俺の子だ。


要人は、妙な確信を得ていた。


対照的に、領子は何も考えることができなかった。

……いや……考えることを、やめたのかもしれない。



たとえ、遺伝子上の父親が誰であったとしても、わたくしの子には違いない。

無事に生まれてくれるまで、迷うまい。

わたくしが、守らなければ……。





病院の玄関口で、要人と別れた。

領子は、タクシーで帰宅した。


「お姉さま。おかえりなさい。……顔色がすぐれないようですが……。」

高校生になった義妹のかほりが、心配そうに声をかけてくれた。


「……かほりさま……。ありがとう。でも、大丈夫よ。お義母さまは、もう、お帰りでしょうか……。」

領子は、笑顔を貼り付けた。


釣られたように、ニコッとかほりもほほえんだ。

「ええ。今、お茶を召し上がってらっしゃるわ。」


「そうですか。……ご挨拶して参りますね。」


領子は、かわいい義妹に会釈して、姑の部屋へと向かった。



……あら?

お土産は?

いつも必ず何かお土産を買ってきてくださるのに……やっぱり体調がすぐれないのかしら?


かほりは、何となくいつもより慎重な足取りの領子の背を、不思議そうに見送った。


単に、それどころではない事態を何とか消化することに、いっぱいいっぱいで、余裕がないだけなのだが……この時の状況を正確にかほりが理解する事ができたのは後年の話。
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