いつも、雨
ほどなく、かほりは好意的に嫂(あによめ)がお土産を忘れた理由を漏れ知った。


母がバタバタと走り回り、声高に喜んでいた。

「まあっ!まあああっ!そう!そうですか!……おめでとう!……いえ、ありがとう。ありがとう。」


……途中から姑は涙ぐみ……ハンカチをもみしぼった。

そこまで喜びを露わにされるとは思わなかった領子は、絶句して、ただただ姑の喜びを眺めていた。


じくじくと罪悪感が疼くけれど、無理に背筋を伸ばした。


絶対に、疑われてはいけない。

露ほども、不審に思われてはいけない。

わたくしは、橘家の嫁。

千歳さまの妻。

わたくしの産む子は、橘家の子。

真実はどうあれ、そうでなければいけない。


……大丈夫。

大丈夫よ。

これまで、どんな名家でも繰り返されてきたことよ。

そうやって、千年以上存続してきたんだもの。


……橘家の人間としてふさわしく育てれば……大丈夫。

誰からも後ろ指をさされないように……育て上げれば……。
 


領子は、無意識にお腹に手を宛てていた。

決意とは裏腹に、ごめんなさいと……ずっと謝り続けて……。





夕方帰宅した舅は、領子の手を取って、心からの謝意を伝えてくれた。

そして、自身のかかりつけ医のいる病院にかかることを勧めたが……今日、領子が診察を受けた病院は規模も歴史も文句のつけようのない大病院で、主治医の部長先生はその道で有名なドクターだと知ると、むしろ領子を誉めてくれた。


……すべて竹原の思惑通り……なのね。


領子は、今さらながら要人を頼もしいと思った。

甥の恭匡の出生記録を改竄させたと聞いた時には眉をひそめたが、我が身に振り替えるとこれほど心強いことはない。

領子が望めば、血液鑑定も、DNA鑑定も、覆してくれるだろう。


……不思議ね。


実際には、100%要人の子だという保証はない。

なのに、要人も、領子も……お腹の子の父親は間違いなく要人だと思い始めていた。


愛しさがいやまし、領子の頬が自然に緩む。


能面のようだった妻が、穏やかな優しい微笑みを携えているのを見て、夫の千歳もまた変わった。


領子の身体を気遣い、優しい言葉をかけてくれた。


……ミシミシと、罪悪感で心がきしんだけれど……それでも領子は幸せだった。
< 223 / 666 >

この作品をシェア

pagetop