いつも、雨
そして、妹をしげしげと見つめて、言った。

「そうかあ。あんた、知ってたんかいな。……まあ、ちょっと前やったら、貴族の嗜みとも言われてたしなあ。珍しいことちゃうか。……せやけど、趣味に走るんは、せめてややこができてからにしてくれんとなあ。あんたの立場がないやんなあ……。」


……ひくりと、領子の頬が引き攣った。


貴族の嗜み……。

それは、お兄さまも嗜んでらした……男色……ってことかしら……。

まあ……質の悪い女性に引っかかるよりはマシかしら。


領子は、自分でも驚くほど冷静に受け止めていた。


「……ちょうどよかったですわ。わたくし、妊娠いたしましたの。今日はその報告で参りました。」

ニコリと、笑顔さえ浮かべて領子は兄に言った。


恭風は、怪訝そうな顔をした。

「……あんた……まさか……」


領子の笑顔がすーっと引っ込み、真顔になった。


疑われている。

お兄さまに、疑われている。

……竹原と逢っていることを……ご存じではないと思いたいけれど……。


領子は能面のような顔のまま言った。

「喜んでくださらないの?お兄さま。橘の家では泣いて喜んでくださっているのに。安定期に入ったら、群馬の温泉に旅行して、お召しの訪問着を誂えてくださるそうよ。」


抑揚のない声だった。

恭風は、領子の心中を読み取ることができず、困惑した。


妹がどの程度、竹原に未練を残しているのか……正直なところ、よくわからない。

しかし、頑ななこの妹が、竹原以外の男に心を奪われるとはとても思えない。


……まあ、強引に身体を持っていかれてしまえば、流されてしまいそうやけど……。

いや。

義理の弟となった千歳は、そんな男ではない。

むしろ、領子に拒まれたら、それっきり……。



「……ほなあ、離婚せえへんのか。」

恭風は、わざわざもう一度、念を押すように確認した。


領子は苦笑した。

「しませんよ。……追い出されない限り、わたくしからは、橘家を出ることはありません。」
< 225 / 666 >

この作品をシェア

pagetop