いつも、雨
どれだけ策を講じても、竹原との関係が明るみに出ない保証はないし、……お腹の子の父親が竹原なら……橘家の人間に少しも似るところのない子供に疑いを抱かれるかもしれない。

いろんな覚悟をしておかなければいけない。

……どんな状況になっても……竹原の……奥さまと義人くんに、迷惑をかけたくない……。


自分が妊娠してみて、領子はますますそんな風に思うようになった。

不思議だけれど、不安なはずなのに、満たされていた。


竹原には、たくさんの愛情と時間と「お土産」をもらってきた。

それだけでも充分すぎるほど充分なのに……このお腹の子が竹原の子だったら、もう……たとえ竹原とお別れして、これから先、1度も逢えなくなってしまったとしても、わたくし……恨まないわ。

そりゃあ恋しいし、淋しいでしょうけど……。




「……そうか。わかった。ほな、しっかりやりよし。……あんまり出歩かんと、家でおとなしゅうしときよし。」

恭風は、珍しく兄らしい言葉をかけた。

「ありがとうございます。……あの、それで……臨月になったら、こちらに里帰りしてもよろしいですか?」

「へ?」


驚く恭風に、領子は苦笑した。


「……お兄さまと恭匡さんにはご迷惑をおかけしないように、キタさんも来てくれますので。」

「いや。迷惑でも何でもないけどな。……恭匡かて、半分以上、わしが育てたんやし、わしは全然かまへんけど……あちらのご両親が納得せんのちゃうか?」


天花寺の両親が鬼籍に入ってから、橘の両親、とくに舅の千秋は、領子の親代わりになってくださった。

可愛がっている嫁が孫を産むことを、さぞや楽しみにしてらっしゃるだろう。

何も、女手のない男所帯の実家に嫁を預けることはないとお考えになるのではないだろうか。


領子は、おもむろにうなずいて、そして両手をそっと合わせて拝むように兄に懇願した。

「だから、お願い!お兄さまからも、お口添えして!」


子供のような領子の仕草は、恭風の琴線に触れた。


よくわからないが……婚家でつらいこともあるのだろう。

出産前後のわずかな期間だけでも、実家でゆったりと過ごしたいというなら、兄として応援してやるべきだな。


恭風は黙って文机に向かった。

さすがに天花寺家の当主だ。

あっという間に美しい書状を認めてしまった。


ひらひらと、料紙をはためかせて墨を乾かしながら、恭風は言った。

「ほなな。あんじょう書いといたから、これを、橘さまに渡すんやで。……うちは、いつ来てもろてもええからな。……まあ、わしは何もせんけど。あんたが居てくれたら、恭匡が喜ぶわ。」

「ありがとうございます。お兄さま。」

領子は手をついて深く頭を下げた。


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