いつも、雨
ご丁寧に、ホテルのヒトが領子を迎えにやって来た。

……領子が確実にタクシーに乗るのを見届けるためだろう。


しばらくは、不自由になりそうね。

仕方ないわ。

自業自得ね。


ため息をついて、領子は車寄せからタクシーに乗り込んだ。



1つ目の角を曲がってすぐ、見知った車が強引な幅寄せから、タクシーの前に回り込んだ。

慌てて急ブレーキを踏んだ運転手が、窓を開けて叫んだ。

「危ないだろう!」


領子は、お財布から1万円札を出して運転手に手渡した。

「すみません。降ります。ドアを開けてください。」


運転手は前の車に対する怒りと、領子の突然の降車に驚いて……首を傾げながらドアのロックを解除して開けてくれた。


「ありがとうございました。」

領子はお礼を言って、タクシーを降りた。


走ろうとしたら、お酒が回ってしまったのか、足がもつれてしまった。

「あ……」

領子はタクシーのすぐ前でぺたりと座り込んでしまった。


「大丈夫ですか!?」


声をかける運転手に手を上げようとしたら……背後から両脇を抱えられて、起こされた。


「ずいぶん強いお酒を飲んだそうですね。」


苦笑まじりの声に、領子の涙腺が決壊した。


「う……竹原……わたくし……わたくし……」

嗚咽で、うまく話せない。


要人は領子を、素早く抱き上げると、自分の車に運び込んだ。



後部座席で、2人はひしと抱き合った。

黒いフィルムを貼ったガラスと、運転席との間に唸りをあげて上がっていくパーティションに甘えて……領子は、子供のように泣きじゃくった。

要人は、時折、領子の背中や頭を撫でながら……領子の心が落ち着くのを待った。


「話は全て、聞いていました。……橘千秋氏は、やはり……大きな人物ですね。」


……聞いていた……?


領子は驚いて顔を上げた。


仕事があるって言ってたのに……こうして、待っていてくれただけでも……たぶんお仕事関係のヒトに迷惑をかけているのに……いったい、どうやって……。

……ダメだわ。

竹原は、本当に、わたくしに甘すぎる。

わたくしのために、……お仕事どころか、家族も……捨ててしまう気だわ……。


「ダメよ。」

領子は要人を見つめてそう言った。


要人の顔が歪んだ。
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