いつも、雨
ほんのわずかな時間で、こんな風に乱されて、満たされてしまうなんて……。


領子は、ぽつりとつぶやいた。

「……子宮で恋するって、こういうことかしら。」



ぐったりしている領子の身体を、ティッシュで拭いたり、下着とストッキングをちゃんと整えたり、髪を直したり……かいがいしく世話しながら、要人はからかった。

「子宮で考える、じゃなかったですか?……てゆーか、領子さま……俺の身体が目当てだったんですか?酷い御方だ。」


「……馬鹿ね。」

領子は気だるげにそうつぶやいて、窓の外を見た。


車はぐるりと家の前を周回したようだ。

運転手の江連が気を使ってくれたのだろう。


「降りるわ。……明日って……どうするの?」

「来日中のオケのチケットを取りました。夜の公演ですが、プラチナチケットらしいので、ご家族に反対されることはないでしょう。……ホールに入ってしまえば、2時間ほど、自由ができますから。」


領子の顔がぱっと輝いた。

「まあ!うれしいわ!……もったいないけど……ありがとう。……ごめんなさい。いつも、無理させて。」



要人は、やっと笑顔を見せた領子に、心から安堵した。



貴女の、その顔を見るためなら、俺は何でもいたしますよ。

……真面目に……考えたほうがいいかもしれない。

橘千秋氏はああ言ったが……百合子の父親が千歳氏ではないことが、彼や姑にバレるのは時間の問題かもしれない。

その時、領子さまが安心して俺を頼れるように……俺自身の整理をしておくべきだろう。


できることなら、妻や子供達を傷つけたくはなかったが……。


どちらが要人にとって大切か。


考えるまでもなく、領子だった。


「歌舞伎なら4時間ぐらい一緒にいられるかしら。」

珍しく欲深い領子が愛しくてたまらない。

「ダメですよ。歌舞伎は。普段からよく行かれてますから。役者の番頭さんや、奥方が幕間にご挨拶に来られるでしょう?」
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