いつも、雨
佐那子は、表面的には変わらなかった。



翌朝、子供達と要人を送り出すと、すぐに区役所に向かった。

離婚届の不受理申請をして、ついでに離婚届をもらって帰った。


それから、娘の由未の小学校入学の内祝を、お祝いをいただいたかたがたに送った。

リストの中に「橘千歳」の名前を見つけて何とも言えない気持ちになった。


……佐那子の立場としては、橘夫妻は離婚しないでほしいと思う。



でも……一番大切なのは、私や、要人さんじゃなくて……百合子ちゃんの気持ち。

百合子ちゃんは、知らないのよね?

自分の父親が、橘千歳さんじゃないということを。


……百合子ちゃん……要人さんのこと……どう思っているのかしら……。



佐那子には、とても他人事とは思えなかった。







その年、要人は、これまで以上に、家族との時間を作ろうとしてくれた。

未完の新居で、テントを張ってのキャンプやバーベキューは、毎週のように楽しんだ。

今まではまともに休まなかった連休も、人並みに休を取って、国内外を旅行した。


イベント続きのクリスマス、お正月……もうすぐ、離婚を切り出されてから1年……。


このまま、何事もなく、家族で楽しく暮らしたい……。


そんな、佐那子の当たり前の願いは、ある日突然、霧散した。



2月下旬の寒い日だった。

夜の間に少し雪が降り、庭は一面真っ白だった。

キラキラと反射で眩しくて、早起きした義人と由未は、朝食を取る間も惜しんで、庭で雪まみれになって遊んでいた。

「はい、もうおしまい!ご飯食べてー。学校、遅刻するわよー!」

追い立てる佐那子の声と、はしゃぐ子供達の声が耳に心地よい。


知らぬ間に頬が緩むことに気づいて、要人はマイホームパパというのも悪くない……と、思い始めていた……その矢先だった。


会社で、要人は長い間待ち焦がれていた知らせを聞いた。


『竹原。領子が、橘家を追い出されて来よったわ……。』

天花寺家の当主、恭風は不機嫌な声でそう電話を寄越した。


一瞬、息が止まった。


「……そう……ですか……。あの……百合子さまは……。」


ふんっ……と、電話の向こうで、恭風が鼻を鳴らした。

『もちろん一緒や。百合子も、キタさんも。……千歳さんの子ぉやないってバレてしもたら、もう、しゃあれへんわなあ。……どうするんや。』


恭風は、言外に怒っていた。

領子だけではなく、要人にも……どう責任を取るのか、とばかりに……。
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