いつも、雨
「えりちゃん……。」

どう見ても苦労も知らず、贅沢を贅沢とも気付かず普通に享受している領子(えりこ)が何を言おうとも、説得力はなかった。


しかし、領子の言葉は一夫を発奮させた。

「いや。わしが絶対そんな想いはさせん。これからは、今までみたいに店を赤字のままにせんと、ちゃんと利益を出すように見積もり出すわ!」

「……赤字……?」

絶句する領子に、一夫の母が説明した。

「一夫は独立して一人親方から始めたでしょ。なまじ自分も現場で大工仕事をして、そこそこ高めの手間賃をもらえるから……店の利益を上げるって意識が、なんぼ言うて聞かせても、なかったんよ。……税理士の先生に、慈善事業と笑われてるのよ。」

「……はあ……。」

領子は、ますます不安になった。








……チッ。

盗聴器越しでもわかる領子の困惑に、要人(かなと)は舌打ちしてしまった。


今にも泣き出しそうな領子を……少し離れた車の窓から、要人が苦々しく見ていた。


……今さら……領子さまにカネの心配をさせるなんて……。


湯水のようにカネを使い、贅沢に慣れさせ、それが当たり前のことのように教えこんだのは、他ならぬ要人だ。

領子も、恭風も、一生、世話をするつもりだった。


なのに、こんな……クソッ。


「社長。解散するようですが。どうされますか?」

運転席の江連(えづれ)が聞いた。


一夫の車……それも、ずいぶんと型遅れの国産セダンの助手席に領子は乗り込んだ。


「……無事に領子さまがご帰宅されるのを確認してくれ。」

それだけ言って、要人はするりと車を降りた。

一行に見つからないように、車の陰を伝い……家には戻らず、そのままタクシーをひろって祇園に向かった。


……領子を送り届けた一夫が、その足で、今度は竹原邸に仲人を頼みに来るかもしれない……。

領子には確かに引き受けるとは言ったが……正直なところ、今は領子を奪った男の顔なんぞ見たくない。



要人は、逃げた。


酒へ。

そして、めんどくさくない、後腐れのない女へ……。
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