いつも、雨
「合格……よかった……。」

1月半ばの寒い夜、恭匡(やすまさ)は寮の公衆電話でうれしい知らせを聞いた。


『やー、よぉがんばったわ。百合子も、由未ちゃんも。……来年は、あんたやなあ。』

恭風(やすかぜ)は、暢気に2人の中学受験の合格を伝えるだけではなく、息子の恭匡にハッパをかけた。


恭匡は苦笑をかみ殺して、神妙に返事した。

「ご期待に添えるよう、がんばります。」

『……ふん。ああ、そうや、来年の卒業式の時には旅行がてらそっちに行こうと思うんやけど、』

「わざわざ来られなくてもけっこうですよ。すぐに一次だし、式の翌日にはそちらに戻りますから。」

恭匡は淡々とそう返事した。


2月の函館に飛んで来て、慣れない寒さと雪で風邪を引かれても厄介だ。


『そうか……。ほな、待ってるわ。そやな。試験前に、無理矢理、観光に引っ張って、あんたが風邪でも引いたら厄介やしなあ。』

恭風は少しの間を置いてそうつぶやいた。


……離れて暮らしていても、さすが実の親子だな……。


同じ心配をし合うことに、多少の皮肉を感じながら、恭匡は電話を切った。




……由未ちゃん……志望校に合格したんだ……。

めでたいことではあるが、恭匡は改めてため息をついてしまった。


第一志望の学園は、由未の兄の義人も通っている名門校だ。

偏差値も高いし、学部を選ばなければどんなに成績が悪くても大学までエスカレーターで上がっていける。

申し分ない学園なのだが……恭匡は、悶々としていた。



由未ちゃんの第二志望は、お母さんの佐那子さんの出身校だと聞いていた。

……そっちだって充分、偏差値の高いお嬢さま学園なのに……どうして……共学に行くんだ。

女子校に行ってほしかった……。


本気で恭匡は残念がっていた。

恭匡は、自分はロリコンではない……と、思う。

いや、実際に、別にそのへんの幼女や童女に興味はない。


竹原要人の娘の、由未だけに、やけに反応してしまうのだ。


2度しか会ったことしかないのに……それもわずかな時間だったのに……恭匡の心に燦然と輝き続けている特別な時間。


……さすがに、何年も大事に想い続けている自分を客観的に鑑みると、それが恋だと認めざるを得なかった。


特別美人なわけではない。

……美しさを求めるなら、従妹の百合子のほうがはるかに美しい。

とりわけ才能豊かなわけでも、めちゃめちゃイイ子というわけでもないと思う。

おそらく、取るに足らない普通の女の子なのだろう。


しかし、恭匡の琴線に触れる唯一の存在なのだから仕方ない。



……春から中学生……か。

制服、どんなのだっけ?

かわいいだろうな……。


想像すると勝手に頬がにやけた。



……由未の通う予定の学園には制服がないことを、恭匡は知らなかった……。

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