いつも、雨
ちょうど1年と2ヶ月後。

恭匡の合格の報を、領子は兄から電話で聞いた。


「まあ……。おめでとうございます。本当に……よかった……。」

領子は甥の快挙に涙ぐんだ。


『何や何や、泣いてくれてんのか。おおきに。ありがとうな。……恭匡が帰って来たら、お礼の電話させるな。』

恭風は上機嫌でそう言った。


「そんな。わざわざ結構ですわ。……いえ、そうだわ。せっかくですから、直接、お祝いを持って行こうかしら。」

言ってるうちに気分が華やいできた。


『へえ。いつでもどうぞ。……男所帯でろくなもてなしできひんけどな。』

恭風はわざわざ強調してそう言った。


……北海道から帰って来た恭匡は、少年のままの潔癖さで、父が引っ張り込むあまり質のよくない女性達に打ち解けようとしなかった。

さらに、恭匡本人に悪意はないのだが、かつてよりもさらに拍車のかかった偏食と化学物質に対するアレルギー反応が化粧臭い女性の存在自体を受け付けず……仕方なく、恭風は女性を自宅に引っ張り込むことを断念している。


……こんなことやったら、ずっと北海道に居てたらよかったのに。

恭風は恨めしげにため息をついた。



領子は暦を見て、兄に言った。

「来週の大安にうかがいますわ。」

『わかった。来週やな。おおきに。……一夫くんと、百合子も来るんか?』

恭風に問われて、領子は首を傾げた。

「平日ですから主人はお仕事ですわ。百合子は……習い事があるんじゃないかしら。」


中学生になった百合子は、母の領子も感心するほど、習い事に熱心に勤しんでいる。

……単にやることがないから……と、百合子は言っているが、教養を高め、自分に磨きをかけているようだ。


自分の娘ながら、どんどん綺麗になって……わたくしにも似ているけれど……竹原にも似ている気がする……。


『そうか。あんた独りやな。わかった。気ぃつけておいでぇや。来週やな。』


兄の声が明るくなったのを感じた。
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