いつも、雨
熱い瞳でじっと見つめている領子から逃げるように、要人は身を翻した。


……あ……行っちゃう……。

どこ行くの?

置いて行かないで。

私も……一緒に、連れてって……。


慌てて立とうとしたけれど、先ほど捻った足首にズキンと痛みが走った……気がした。


「……痛っ……。」

とても小さな声だったけれど、要人は慌てた様子で振り返った。

「あかんて。座ってて。……湿布、持ってくるから。」

「あ……はい……ありがとう……。」

なんだ……。

湿布を取って来てくださるのね……。

放置されるわけではないことを確認して、領子はホッとしてほほ笑んだ。



要人は、大奥さまのもとへ行き、領子が足を挫いたことを伝えた。

「あれあれ。領子さんは、京都に来はるとお転婆にならはるから。はしゃぎすぎたんやねえ。……病院行かはらへんでも大丈夫そうですか?」

「……腫れてる様子もありませんし、たぶんすぐに忘れられると思いますよ。」

言ってて、頬が緩んだ。




……仮病だとは言わない。

でも、俺を引き留めることに痛みを利用してるよな……あれ。

かわいい。

本当に、なんてかわいいお姫さまなのだろう。

他の誰とも違う……。

どんな女とも、違う存在。

主家の姫だから……いや、もちろん、それだけじゃない。

ただただ、愛らしい。


鴨五郎がやけにからかうから、むしろ頭から否定しているけれど……それでも愛しいと思う気持ちは自覚している。

言われるまでもない。


領子は、要人に恋心を抱いている。

ずっと……。


いつからだろうか。

かわいそうに。

婚約者という男は、それで平気なんだろうか。

ちゃんと、婚約者とも、仲良くやっていけているのだろうか。



考えないようにしていた疑問と不安に要人はため息をついた。


……あと、半年。

東京に行けば、いやでも、領子の婚約者を見る機会もあるだろう。

どんな男だろう。

領子さまを、ちゃんと、笑顔にしてやれるかたならいいけれど……。


……。


何を考えてるんだ、俺。

俺の口出しすることじゃない。
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