いつも、雨
ふと、淡い色の小さな花が目に飛び込んできた。

領子が欲しいと言っていたのと同じヒルガオだが、色が違うようだ。

さっきの花は淡い淡い紫だった。

ここに咲いているのは、青みが強い。

確か、庭の向こうにはもっとピンク色のも咲いていたような気がしてきた。



……色とりどり揃えたら……少しは華やかになるかな?

どれ。


要人は、財布からカードのような物を取り出した。

折りたたみ式のナイフだ。

小さく薄いが、よく切れる。


要人はなるべく花のたくさんついていそうなツルを選んで、数本切り取った。

続いて、覚えてる限りのヒルガオの咲いているスポットを足早に回った。

白、水色、薄紫、ピンク……ピンクも紫の強いピンクと、桜色のものと、コスモスのような色のもの……こうして集めてみると、けっこうな差があるんだな。


抱え切れないほどのツルを腕に巻き付けるように持って、要人は領子のもとに戻った。

なぜか、領子はうつむいてしくしくと泣いていた。


「え……?泣いてはる?領子さま?足、痛いんですか?」

領子は、パッと顔を上げた……というより、キッと要人を睨んだ。


紅潮した頬も、真っ赤な目も……涙に濡れた黒い睫毛も……ゾクゾクするほど美しかった。




……いつも、領子さまを笑顔にしたいと思っていた。

でも……泣かせてみたい……。


そんな不埒な想いを、要人は初めて心に抱いた。




「遅い……また、置いていかれたのかと思ったわ。」

領子の舌鋒が急激に鈍った。

要人が、まるで花嫁のブーケのように緑のつるを大量に持ってきたことに気づいたからだ。

「そっか。ごめん。先に湿布を届けるべきやったな。つい、ヒルガオが目に付いたから。」

そう言って、要人はバサッとヒルガオの束を領子の傍らにおろした。


「……お土産?」

領子の瞳がキラキラと輝いた。



喜んでる……。

要人の心にも喜びが広がる……。


「うん。お土産。……タンポポの花輪みたいにして、帽子に飾ったらかわいくないかなって思って。」

「素敵!」

領子は両手を組んで、ジタバタと足を動かした。


……てゆーか、足……大丈夫やん。

苦笑して、要人は、領子の前に膝をついた。

「領子さま。動かんといてください。……湿布……。」


領子は、慌ててそっぽを向いた。

……既に全然痛くないのだけれど……世話を焼いてもらえることがうれしくて言い出せない。

「お願いします。」

とだけ言って、上半身を捻り、ヒルガオのつるに手を伸ばした。



まったく腫れてもいないし、赤くすらなっていない、小さな白いかかと。



要人は衝動的に、そっと口づけた。
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