いつも、雨
天花寺家の大奥さまがお亡くなりになられたのは、要人と恭風が高校3年生、領子が小学6年生の夏だった。

覚悟していたとは言え、要人にとっては、肉親以上の存在だ。

ぽっかりと、胸に穴が空いてしまった。




「……竹原。改めて、母によく尽くしてくれて、ありがとう。……こんな状況で、何の形見分けもしてあげられないけれど……高校を卒業するまではここに居てくれていいから。」

葬儀が終わったあと、現当主はお膳の片付けを手伝う要人にそう言った。

遺産や形見分けを当て込んでいた親類への説明を終え、当主はとても疲れて見えた。


「……ありがとうございます。時間もできますので、これからはアルバイトをして、少しでも下宿代をお納めしたいと思っています。」


東大受験を半年後に控えた受験生が、こんな時期からアルバイトを始めるなんて、普通ならあり得ない。


しかし当主は、要人がもたらすという僅かな下宿代にすらすがりつきたい状況だ。

「……気を使わせて……すまない。ありがとう。」

何となくホッとしたような表情に、要人の胸が痛んだ。



2年半、この家の片隅に住まわせてもらってきた。

元華族の窮状は、要人の予想をはるかに凌駕していた。

粗末な食事に、徹底した光熱費の節約。

到来物以外には、お菓子どころかフルーツも食卓に出ることはない。

家内では爪に灯をともす生活をしながら、外での華やかなお付き合いには惜しみなく金を使う……。


当主は、成金や政治家に書を売って得た金品を、家庭を潤すためではなく、ゴルフやパーティーに費やした。

実家の財産を既に食いつぶした奥さまは、今はネズミ講のように友人知人に化粧品や健康食品を売りつけてはキャッシュバックを得て、流行の洋服を買い漁っていた。

……子どもたちの学費や習い事のお月謝は、これまでは大奥さまが出してらしたそうだが……これからは、それも大変
だ。


当主は、相続税を払えないので京都の邸宅を売ろうとすらしていた。

しかし、月に何度も京都に通っている恭風が猛反対した。
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