いつも、雨
結局、大奥さまの残された金融財産のすべてと、京都の家に大事に大事に保管されていた家宝を、恭風の仲良くなった京都の好事家達に高めに買ってもらうことで、何とか家と土地だけは守ることができたようだ。

「手を入れられへんから、荒れ放題やけどな。」

1人で京都に行くたびに、恭風は荒れていく邸宅を嘆いていた。


もっとも、荒れているのは、ココも同じだ。

必要最低限の生活のための道具しか、もはや残ってない。

ところどころ柔らかい畳や床ぐらいは、せめて修繕したい。


要人は、アルバイトで得たと称して、鴨五郎のアドバイスで順調に増やしている金を、この家に使うつもりだった。





「そうだ。これ。……母から君への……遺言状だな。たいしたことは書いてないだろうけど、親身に介護してくれたから、改めてお礼を言いたかったんじゃないかな。」

当主はそう言って、要人に白い和紙の封筒を手渡した。

かつて京都の家で見つけたものとは少し違うが、封緘印は同じものが押してある。

生前、大奥さまは遺書を年に1度は書き換えると言っていた。

これを書かれたのは……今年になってからなのだろうか……。


要人は、大事そうにポケットにしまい込んだ。





その夜、一人になってから、要人は大奥さまからの遺書を開封した。

見慣れた大奥さまの麗しい水茎に、要人の涙腺が決壊した。

涙で文字が読めない。


要人は、一旦、便箋を折り直して封筒にしまうと、ひとしきり涙にくれてから、おもむろにまた取り出した。



そこには、当主の言っていたような、介護に対する感謝の言葉などはなかった。

ただ、要人に天花寺家を頼みたいという強い願いだけが記されていた。


……どういう意味だ?

天花寺家って……恭風さまを支えろって意味か?

確かに恭風さまは、高等遊民の道を進んでらっしゃるが……人当たりがいいから何となくのほほーんとやってらっしゃるようで、意外と抜け目がない。

常々、自分が一生遊んで暮らせるだけの持参金を出せるなら成金とでも結婚するとおっしゃってる。

……実際、そのおつもりでつきあう女の子でさえ選定してらっしゃるし、たぶん何とかなさると思うのだが……。


要人は大奥さまが自分にどんな役割を望んでいるのか、測りきれなかった。
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