いつも、雨
ロビーなかほどで、一行は立ち止った。

領子がそろそろと2人から離れる。

どうやらトイレに行くらしい。


チャンス到来。

要人は、待合の椅子に座った2人には見えないように、領子が向かおうとしているトイレに、わざわざ別の方向から回り込んだ。

そうして領子より先に入り込むと、何も知らずにふらふらとやって来た領子を広めの個室に引きずり込んだ。


抵抗もなく、かといって驚きもせず、領子はお人形のように要人の胸に抱きしめられた。



「……領子さま……。」

言いたいことは山ほどあるのに、言葉が出ない。

やせた肩が痛々しくて……、要人の目が潤んだ。



領子は小さく息をついた。

「……さすがに女性トイレに、いるとは思わなかったわ……。竹原って、本当に……呆れたわ……。」


淡々とそう言う領子に、要人は違和感を覚えた。


「……失礼しました。こうでもしないと、お会いできるチャンスがなさそうでしたので。」

そう言って、要人は腕の力を緩めた。


しかし領子は身じろぎもせず……要人の顔を見ようともしなかった。



「領子さま。……一夫くんは……」

「わたくしのせいですわ。」

要人の言葉を遮るように、領子はやけにきっぱりそう言った。


そしてたたみかけるように続けた。

「わたくしが、ずっと主人を裏切ってきたから、ばちが当たったのです。あの人は何も悪くないのに。わたくしの業(ごう)の報いです。」




……やばいな。

長年のつきあいだ。

要人は、領子の思考がおかしな方向へと突き進んでしまっていることに、苦笑を禁じ得なかった。



理屈が通じる状態ではない。



要人は、多少強引に領子の顔を自分のほうへ向けさせると、問答無用で口づけた。


逃げることもできず……深く長いキスを受けるうちに、領子の強張った全身から力が抜けた。



ほろほろと、領子の両目から涙がこぼれ落ちる。


泣きはらした瞼の朱がいたましい。


なのに、こんな時でも、こんな場所でも、要人はそそられた。

さすがに自重して、ため息をついた。
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