いつも、雨
「明後日、手術で摘出するそうです。肝臓のほうは、その後で治療を始めるって。……励ましてあげてね。一夫さんリクエストのケーキができたら、また連絡するから。」


治療……。

手の施しようのない状態ってわけではないのか。

しかしそれはそれで……大変だな……


『わかった。ありがとう。早めに帰るとするよ。』

「うん。そうしてさしあげて。……」



電話を切ったあと、佐那子はハンカチを両目に宛てて、むせび泣いた。


……その涙が、純粋に一夫が心配なばかりじゃないことに気づいてしまった。

自分が嫌な女に思えて仕方ない。

こんなはずじゃなかったのに。

夫がどれだけ玄人愛人を作っても、……そりゃあ、平気ではなかったけれど、仕方ないとあきらめられたのに。

領子のことも、自分より先に夫の中に住み着いていたと理解してからは、受け入れてきたつもりだったのに。


今になって、どうして……こんなに苦しいのだろう。


一夫さんは、要人さんに……領子さまを頼むと、託すつもり……よね……。


今度こそ、私は……要人さんを失うのね……。



背中を丸めて嗚咽する佐那子を、ちょうど見舞いに来院した百合子が見つけたが、とても声をかけることはできず、遠くから形だけ会釈して通り過ぎた。







その日の夕方、結局、要人は仕事を理由に帰宅せず、直接病院に向かった。

早めに行けば、もしかしたら、領子に会えるかもしれない。


さすがにホテルに連れ去ることは無理だろうが……少しでもお慰めできれば……。

邪(よこしま)なのか、純粋なのか、領子に対してだけは時間も金も労力も惜しまない要人は、わずかな希望にすがって領子を待ち構えた。


とっくに診察も会計業務も終えた病院ロビーは、たまに見舞客が通るだけで閑散としていた。




日が暮れる頃、領子は娘の百合子と、キタさんに両脇から支えられるように、おぼつかない足取りでエレベーターホールに姿を見せた。

キタさんはともかく、百合子の前で声をかけるわけにはいかない。


遠くロビーの奥からでも、領子の面やつれは顕著だった。


おいたわしい……。


要人は無意識に胸を押さえていた。


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