いつも、雨
「……業(ごう)だというなら、領子さまだけじゃない。俺も同罪です。ともに地獄に墜ちようと、何度もお約束してきました。また、お忘れになるのですね。」

要人は領子の瞼に唇を何度も押し当てながら、そう呟いた。


領子はハンカチを鼻にあてがい、もごもごと何か言おうとして、……あきらめた。


混乱していた領子の頭が、この世の終わりのように荒んだ心が、平静を取り戻すのに、そう時間はかからなかった。


「……いつも、わたくしの心をかき乱すのに……こんな時には、殊勝なのね……。」

すんと、鼻をすすって、領子はそうこぼした。


要人はにっこりとほほ笑んで見せた。

「領子さまのことは、誰よりもよく存じ上げてますから。……心も、身体も。」

「いやらしい。」

口をとがらせて、領子は要人の胸を少し押しのけた。


要人は、あっさりと領子を手放してから、おもむろに両手を挙げて見せた。

「何もいたしませんよ。さすがに、ここでは、ね。……場所を移して、改めてお話したいのですが。」



キスしたくせに……。

少し睨んで、それから、領子はため息をついた。



「……領子さま?」

「……いいえ。もう、お会いしません。……今さら遅いかもしれませんが……わたくしは……少しでも、主人のそばに……いたいのです……。」

ほろほろと新たな涙が領子の頬を伝った。


夫との今生の別れがそう遠くないと、領子は覚悟し始めていた。



気持ちはわかる……。

だが、それでは、俺は一夫くんの死を待たねばいけないのか?

あんまりだ。



憮然としている要人を、領子は涙に濡れた瞳で見上げた。


要人の中の雄がざわめき立つ。




いっそここで……。



そんな邪な欲望を解き放とうとした要人に、領子はわざわざ深々と頭を下げた。


「領子さま!?頭をお上げください。」

慌てる要人に、領子は震える声で懇願した。

「竹原が、わたくしと共に地獄に堕ちてくださるつもりでしたら、お願いします。……わたくしと一緒に……我慢してください。」

「我慢って……。」

「……こうなって、わたくし、どれだけ主人をないがしろにしていたか……ようやく、わかりました。もう……竹原とは、お会いいたしません。」


かたくなにそう繰り返す領子に、要人は、為す術もなく立ち尽くした。
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