いつも、雨
「奥さまっ!」

ねえやが慌てて、母を窘めた。


驚く母は、ねえやの視線をたどり、戸口に橘夫人と千歳がいることに気づいた。


「あ……。」

領子は真っ赤になって母の背後に隠れた。


橘夫人は曖昧にほほ笑んでスルーしてくれた。

「お加減いかがですか?どうぞ、無理をなさらずに、ごゆっくりなさってらしてくださいね。」


千歳は、領子とかわらないぐらいに赤くなって、橘夫人の影にかくれてそっぽを向いていた。

おそらく、橘夫人が無理矢理連れてきたのだろう。


幼い婚約者たちは、言葉どころか、視線さえ合わさないままだった。



……タイミングが悪かった……。

ただ、それだけのこと……。

頭ではそうわかっていても、領子は己の間の悪さが恨めしかった。




……その割には、翌日……つまり、今日の葬儀は、何事もなかったかのように振る舞えたと思う。

重く鈍く痛む生理痛は、痛み止めのお薬でかなり楽になった。

初めてに生理用ナプキンに違和感はいっぱいだったし、血の匂いを他のヒトに気づかれないか……心配だったけれど……意地とプライドで姿勢をぴんと伸ばして告別式を乗り切った。


要人は、領子が頑張り過ぎてないかを気に掛けながら、前日よりも忙しく立ち働いた。

既に親族のつもりなのか、橘のご当主とご子息が、天花寺の当主と共に会葬客に頭を下げ、挨拶を交わしていた。

……こんな時でもどこ吹く風……暢気にマイペースではらはらと涙をこぼす恭風は、領子の隣でずっと座っていた……。


まあ、恭風さまに比較すれば、だけど……あの橘の千歳さまは紋切り型のイイ子ちゃんなんだな……外面(そとづら)は。

しかし、社交上の教育はされているようだが……肝心の領子さまに対して、何てゆーか……不器用過ぎないか?

興味がないともクールだとも思わない。

自分に自信がないのだろうか。


要人は、意外と冷静に領子の結婚相手を見つめていた。

まだ海のものとも山のものともつかないけれど……どうしようもない馬鹿というわけではなさそうだ。

いずれ2人は歩み寄り、お互いを見つめ、恋愛感情を抱き合い、結婚するのだろうか。



知らないうちに、要人は片頬だけを上げて薄く笑ってしまっていた。



全く現実感のない現実だな。
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