いつも、雨

Tu es toute ma vie.

それが、指輪に刻まれた文字だった。



「人生の……全て……。」

つぶやくと、何故か、涙がこみ上げてきた。



その言葉が嘘ではないことを、領子は知っていた。

幼い頃から、憧れていた。

身分違いと遠ざけられ、両親に許してもらえなくても……、どうしても、思い切ることはできなかった。



竹原の執着に甘えて……わたくしたちは、こうして、今なお愛し合っている。

でも、本当に、これでよかったのかしら。


わたくしは、また、選択を間違えてしまったのではないかしら……。




……領子は涙を浮かべたまま、指輪をじっと見つめた。




要人は苦笑した。


「そう悩まなくても。とりあえずは、受け取ってくださったら、それでけっこうですよ。」


「……ありがとう。大切にいたします。」

領子は、やっとほっとしたような笑顔を見せた。



ぽつり……と、日傘に不穏な音が響いた。


「おや?雨かな?」


見れば、いつの間にか黒い雲が広がっていた。


「ほんと。通り雨かしら。」


日傘から顔を出して見上げた領子の頬に、大きな雨粒が落ちてきた。


「降りそうですね。行きましょう!」


要人は、領子の肩を抱き寄せると、少し速めに歩き出した。


ぎゅっと、領子も要人にしがみついて歩いた。


……他人様に見られたら外聞が悪いのに……離れたくない……。

不思議ね。

竹原とこうして一緒にいると、自分の年齢も、竹原の年齢も忘れて……少女の頃の感覚に戻ってしまう。

ただ、竹原と一緒にいたい……。



領子の想いは、そのまま要人の想いだ。


愛しくて仕方ない、唯一無二の女性を腕に抱く……それこそが人生最良の時間だと噛みしめていた。






車に戻ると、要人はハンカチで領子の髪や肩を優しく拭った。

「ありがとう。」

そう言って、領子もハンカチを取り出した。


要人は少し驚いて目を見開いたが、緩む口元を抑えて隠し、領子のハンカチにおとなしく拭かれた。





車は、洛中へ入ることなく、北へと進んだ。

川を越え、山を越え、景色が変わってゆく。


「もしかして、貴船に行くの?」

領子の声が弾んだ。

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